大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和37年(く)49号 決定

少年 T(昭二二・三・一八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原決定は事実の認定に重大な誤認があるので再考を得たく本抗告に及んだというのである。

よつて記録を精査し案ずるに原決定摘示の非行事実中(一)の恐喝未遂の事実は、少年の司法巡査に対する昭和三六年四月一六日付供述調書、共犯者Mの司法巡査に対する供述調書謄本、及び被害者○田○美の司法警察員に対する供述調書、押収に係る果物ナイフ一丁の存在により、同(二)の銃砲刀剣類等所持取締法違反の事実は、少年の司法警察員に対する昭和三七年四月一四日付供述調書、及び押収に係るヒ首類似の刄物一丁の存在により、同(三)の兇器準備集合の事実は、少年の司法警察員に対する同年五月一二日付供述調書、共犯者Yの司法巡査に対する供述調書、押収に係る登山用ナイフ一本、皮バンド一本、チエーン一本の各存在により、同(四)の虞犯事実は、家庭裁判所の調査官作成の調査報告書により、いずれも明白であり、記録を検討するも原決定には事実の誤認はない。本少年は昭和三六年七月一七日前記恐喝未遂の非行事実により神戸家庭裁判所において試験観察に付されたものであるが、その際同裁判所は少年の保護者である実父に対し、少年の非行の原因はその人格異常に起因するものと認められ、少年の脳波テストの結果はその脳器質に異常のある疑ありとの神戸少年鑑別所の鑑別結果よりして、少年を必ず専門医にみせ診療せしめることを命じたに拘らず、父親は少年を専門医の診療を受けさせたと認められる資料なく、依然として少年のなすがままに放任し、最近では少年はその通学する神戸市立○○中学校の出欠も常ならず、非行少年のリーダー格となり暴力グループを結成し、刄物その他兇器を所持し、授業を妨害したり、或は他の生徒に対し暴力を振うなど非行を重ね、これを注意すれば先生にまで粗暴な振舞をなし、担任の先生も父親に対し少年は脳に欠陥があるのでないかと思われるので一度専門医の診察を受けるよう勧告すれば、却つて父親は先生の教育方針を非難攻撃する有様で、かくては保護者である父親には少年を保護矯正する能力なきものと認められ、母親は継母で少年と折合悪く到底その保護善導を期待し得ない。しかも再度の神戸少年鑑別所の鑑別の結果によれば、少年は現在のところ爆発性の精神病質とは断定しがたいが、現在の性格傾件が固定化すれば精神病質へと移行するものと思料せられるとあり、従つてこの際本少年を医療少年院に収容し、なんらかの治療方法を講じつつ、矯正教育を行う必要ありとする原決定は相当である。

よつて本件抗告は理由なく、少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 松本圭三 判事 三木良雄 判事 細江秀雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例